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【研究調査】化粧品でアクネ菌が増える? 
~保湿剤編~2009.05.19

ニキビ用化粧品の開発に役立つアクネ菌資化性試験を行っています。資化性(しかせい)とは「微生物が、ある物質を栄養源として利用し、増殖できる性質」を示す言葉です。本試験の目的は、物質が微生物に与える影響を調査することにあります。
今回の試験では、第一段階として、化粧品に配合されている一般的な保湿剤が、アクネ菌の増殖にどの程度影響を与えるのか調査しました。

アクネ菌とは?

私たちの皮膚表面には、皮膚常在菌と呼ばれる細菌や酵母が存在し、均衡状態を保っています。皮膚常在菌は皮脂を分解し酸外套(さんがいとう)をつくることによって肌をpH4~6の弱酸性に保ち、病原菌の侵入に対しバリア機能の役割を担っています。アクネ菌は皮膚常在菌を構成する菌の一種ですが、その一方で多量に増加することによりニキビの誘発や炎症を引き起こす要因の一つと考えられています。また、アクネ菌は好脂性であるため、脂質が多く存在する部位に生息することが知られています。

アクネ菌

ニキビとアクネ菌の関わり

アクネ菌の数は思春期前には少ないですが、思春期以降になると皮脂の分泌にともなって急激に増殖し、ニキビ部位では通常より数百倍のアクネ菌が存在しています。それらニキビの発生要因はホルモンバランス、微生物感染、ストレス、食事や化粧品などが挙げられます。
ニキビの発生は、第一段階として毛穴に皮脂が詰まることから始まります。この段階でのアクネ菌の関わりは、アクネ菌の酵素であるリパーゼが、皮脂を遊離脂肪酸に分解し、この遊離脂肪酸の増加により毛穴が閉塞します。第二段階では、毛穴が塞がれたことにより内部に皮脂が詰まった状態になります。それにより毛穴に生息しているアクネ菌が、皮脂を栄養源として更に増殖し、種々の炎症誘導物質を産生し炎症を引き起こします。

各種保湿剤の資化性

各種保湿剤がアクネ菌の栄養源となりうるのかを検討するために、保湿剤をアクネ菌に与えてその増殖率を測定しました。使用した保湿剤は、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、3-メチル-1,3-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、トレハロース、D(+)-グルコース、D-ソルビトール1,3-プロパンジオール、キシリット、DL-ピロリドンカルボン酸ナトリウム、トリメチルグリシン、ラフィノース、グルコシルトレハロース/水添デンプン分解物混合溶液となります。

※GCS:グルコシルトレハロース/水添デンプン分解物混合溶液

上部グラフ左軸の吸光度が高いほど菌が増殖していることを示します。
1,3-ブチレングリコール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、トレハロース、1,3-プロパンジオール、キシリット、DL-ピロリドンカルボン酸ナトリウム、トリメチルグリシン、ラフィノース、グルコシルトレハロース/水添デンプン分解物混合溶液は、無添加と同程度の増加率であったため、アクネ菌に対する資化性は非常に低いと考えられます。

グリセリン、D(+)-グルコース、D-ソルビトールは高い資化性を示し、特にグリセリンは通常の増加率よりも約4倍の増殖を示しました。

今後の展開

今回の研究調査では保湿剤の資化性を報告しましたが、今後は更に、界面活性剤、水溶性高分子、油脂類、脂肪酸など、化粧品の基材として使用される成分についても研究調査を続けていきます。現在、ニキビ用化粧品では、アクネ菌に対する殺菌効果や、患部への抗炎症効果によるアプローチが主流とされています。ただ、それを目的として発売されたニキビ用化粧品に、アクネ菌を増殖させてしまう成分が含まれていたら目的を果たす事が困難になります。そのような事態を避けるためにも、化粧品の構成成分に関するアクネ菌資化性を掌握し、資化性の乏しい、つまりニキビの原因と成り難い成分で処方する事が必要と考えます。

また、この資化性試験を応用する事で、他の皮膚常在菌について検討も可能であり、皮膚常在菌バランスと化粧品の有用性や、皮膚常在菌が関与する臭いの発生についてなど、様々な発展も期待出来ます。